今、「五等分の花嫁」がクライマックスを迎えている。具体的に言うと、あと5話で終わる。
この作品が大好きだ。アプリで更新される火曜日12時を、毎度ワクワクしながら待っているし、もう10回以上は最初から読み直している。
キャンパスボードもある。
私は基本、「ラブコメ」というジャンルが好きではない。ご都合展開が多くなるし、内面描写にも限界がある。予想外の感動が無い、と言った印象。
だがこの作品は例外だ。それらを打ち破って、読者を揺さぶる力がある。
ラブコメには高いハードルを設けているつもりだったが、超えられてしまったら逆に惚れ込むしか無い。我ながらチョロい。
兎も角、最終回を迎える前に、この作品に対する思いを纏めておきたい。核心部分のネタバレは無いが、序盤〜中盤くらいのネタバレは少しあるので注意。
・「誰が花嫁か当てる」推理ラブコメ
一般的にラブコメと言えば、「ヒロインと主人公がドタバタの恋愛劇を繰り広げる」ものだ。そこにはある程度のパターンがあり、お約束も多い。よく言えばいつの代も人気。悪く言えばマンネリ気味。
だがこの作品は、そこにもう一段ギミックを追加し、独自の魅力を作っている。それが、「推理要素」だ。どういう事か?
これは第一話の冒頭。始まった瞬間に「主人公とヒロインの結婚」が作品のゴールである事が示されている。それ自体はありがちな導入..と思うかもしれない。しかし侮るなかれ。この作品のヒロインは驚きの「五つ子」なのだ。
個性豊かな五つ子をヒロインに据える事で、内面描写に幅を持たせている。
個人的に好きなコマと共に、ヒロイン5人+主人公を紹介しよう。知ってるよ、という人は飛ばしてOK。
① 中野一花
カッコいい系長女。姉妹の中で一番努力家。長女であるが故に、見守る立場になる事が多い。その立場が枷となり、他の姉妹に対して引け目を感じる事も。追い詰められて輝くタイプ。
② 中野二野
気の強い次女。一番家族思いで家事が得意。実質姉妹の纏め役。しかし家族思いが行き過ぎて部外者に辛く当たる事も。物語中盤から本領を発揮する。ガンガン攻める時に輝くタイプ。
③ 中野三玖
ミステリアス三女。姉妹の中で一番内向的。読めない言動で物語を回す事が多い。中々行動に移せないのがたまにキズ。全編通して最もラブコメらしいイベントが多い。溜めて打つタイプ。
④ 中野四葉
アホの子四女。姉妹で一番元気で明るい。基本的にはおバカ。行動力が高く、主人公を引っ張り回す事が多い。一人でいる時に本領発揮するタイプ。
⑤ 中野五月
ごじょじょ。姉妹で一番真面目。よく見ると大体のコマで何か食べている。主人公と一対一になる事が多い。物語中盤から末っ子気質が発揮され、印象がごじょじょになる。読めば分かる。主人公と向き合う時にヒロインするタイプ。
⑥上杉風太郎
主人公。全教科満点、学年トップの秀才。母を早くに亡くしており、家は借金を抱えている。その借金を返すために、問題児五つ子の家庭教師を引き受ける、というのがストーリーの軸になる。義理堅く真面目だが、絶望的にコミュ力が無い。悩む過程に良さが見えるタイプ。
この中の誰が花嫁なのか?という事を、常に読者は考える事になる。推しキャラができれば尚更だ。さらに作中には「キャンプファイアの時に手を繋いでいた」「高校時代に既にキスをした事がある」と言った、推理の手がかりが次から次へ登場する。当然読者は「自分の推しは花嫁になるのか?」と、つい前の伏線を確認したくなる。
この仕組みは、完全にミステリー小説のそれである。
単純にラブコメとして楽しむ事もできるし、推理小説のように考察を楽しむ事もできる。これが唯一無二のポイントだと思う。
私が興味を持ったのも、この推理要素に斬新さを感じたからだ。後輩の家でたまたま一巻を読み、次の日にジュンク堂で全巻買った。重かった。
・「つながり」が活きるストーリー
作者である春場ねぎ氏は、ストーリーへのこだわりについて、インタビューでこのように述べている。
尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の「アラバスタ編」って読んだことありますか?
あのエピソードでは、一時的にルフィたちの仲間になったビビが、やがて別れることになりますよね。
何が言いたいのかと言うと、その別れた次の回で、麦わらの一味がビビとの別れを悲しむ場面からはじまっているんですよ。
それが当時、ひとりのファンとして読んでいて嬉しかったんです。エピソードごとにリセットされるんじゃなくて、「ちゃんと前の話が反映されてる!」って。キャラクターたちの感情と、読者の感情がリンクしているんですね。そのときの感動は今も大切にしていて、自分の漫画にも取り入れようと決めていました。
エピソードが分断されずに、ちゃんとつながっているように見せられたら、と考えていたんです。
う〜ん、分かる。この「つながり」とは、ストーリーの連続性であり、読者とキャラクターがつながるという事でもある。そしてこのこだわりが至る所に発揮されている。
例えばコレ。
コミックス6巻のキャラ紹介だ。毎巻内容が変わるのだが、今回は四葉の欄に「寝相が悪いから足元にも枕を用意している」と書かれている。
続いて次の巻の1ページ。
分かるだろうか。四葉の寝ていた(であろう)位置を見ると、確かに足元にも枕が描かれている。前巻のキャラ紹介の一文が、しっかり回収されているのだ。
これには衝撃を受けた。「本当に足元にもあるやん!!」と。だってこんな描写、一回見ただけでは分からない。(実際3週目くらいで気付いた)
同時に、「この作者なら安心して最後まで読める」と思ったものである。こんな細かい描写は、正直無くても問題無い。だが敢えてそれをやる。キャラ紹介欄の設定はその都度考えているらしいが、それをちゃんと本編で拾う。全ては、「つながり」に拘りたいが故に。
こういった拘りが至る所にある。そりゃ惚れ込むってもんですよ。
・「伝わる」キャラクターの変化
ここまで、「つながり」に如何にこだわりのある漫画なのか、という事を述べた。次は、そのつながりの丁寧さが何を生み出すか、という事を述べたい。
こちらをご覧頂こう。
これは第2話の1シーン。主人公であるフータローが、青春に対してどんな価値観か語る。なんて友達の減りそうな考え方だ。そして時は流れ...
95話の1シーン。フータローの価値観がガラリと変わった事が分かるだろう。第2話のセリフを持ってくる事で、その変化の大きさと、五つ子に対する思いの深さが伝わって来る。個人的名シーンだ。
やっている事は普通の対比だが、こんななんでもないコマのセリフを持ってくる漫画は中々無い。
そして、これは先ほど述べた「つながり」の上に積み重ねているから出来る事なのだ。
我々の人生が途切れなく続くように、キャラクター達もその世界を途切れなく生きている。
創作は、ついそういった連続性を犠牲にしがちである。(シンプルに手間がかかるのだ)
だが、つながりの描写にこだわる事で、小さなセリフにも重みが増す。変化が伝わって来る。
キャラクターの「人生」が感じられるようになる。
読者も主人公であるフータローとつながって、五つ子の魅力を徐々に理解する事ができるのだ。
だいぶ長くなってしまった。今回は技術面に注目した内容になったが、次回はもっと砕けて、好きなエピソードやキャラのここが可愛い!を纏めようと思う。楽しかった。