ナートゥをご存知か?
ご存知でない?なら何も言わずこれを見よ。
これが「ナートゥ」だ。
シュールの極み。正直初見は笑わずにいられないだろう。「出た出た、インド映画ってこんな感じだよね〜」
この超絶シュールなダンス。これは劇場で見たら涙が出るレベルの激アツシーンである。
なんでそんな事になるのか?テキトー言ってんじゃ無いのか?
RRR、遅ればせながら視聴した感想を語る。
(喰らったところで1%もつまらなくはならないが)ネタバレ注意!
このRRRは昨年10月に日本で公開され、ナートゥ旋風を映画ファンの間に巻き起こした。
勿論俺も見たかった。ずっと見たかったのだが...結局5月末までかかってしまった。
それは何故か?
上映時間、3時間。
仮に1日の行動時間を15時間と見積もった場合、5分の1がRRRで潰れる事になる。というかそもそも3時間確保する事が結構難しい。
大体3時間も椅子に座ってて大丈夫か?途中でつまらなくなったりしないのか?
全くの杞憂。コレを見よ。
ね、面白いでしょう???
3時間ずーっとこんな感じである。アクション!友情!アクション!!友情!
例えるなら究極版「走れメロス」。ストーリーのあらすじはこうだ。
舞台は1920年、英国植民地時代のインド。 英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム。 大義のため英国政府の警察となるラーマ。 熱い思いを胸に秘めた男たちが運命に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。
この男がラーマ。ラーマとはインド神話における主人公級の神様の名前でもある。
彼はインド人でありながら英国軍に所属し、昇進のため指名手配の男を追う。彼の登場シーンのサブタイトルは「炎」。(マジで10秒くらい使ってじっくりとサブタイトルが表示される)
この男はビーム。部族の娘が英国人に誘拐された為、救出するために仲間と共に首都に潜入。しかし、抵抗を許さない英国により追われる身となる。登場シーンのサブタイトルは「水」。
勘のいい人は気付いただろう。ラーマにとって捕らえる対象がビームであり、ビームが娘を取り戻すためにはラーマと戦わねばならない。
にもかかわらず、2人の間には固い友情が(目があったので)結ばれる事になる。2人は、いずれ殺し合う運命...
この2人が、友情と使命の間で揺れ動くのが本作の醍醐味だ。
正直全く意外性は無い。こんなストーリーは1000年前からありふれている。3時間も持つはずがない。では何がそんなに面白いのか?
アクションである。
先程の動画もそうだが、とにかくアクションが突き抜けすぎている。予想不可能とか言うレベルではない。最早ヤバすぎて笑う。
ちなみにこのラーマとビームは象より力強い足と、柱をへし折れる腕力を持ち、
肩車で空を飛ぶ。
正しくは跳躍するのだが多分飛んでる。俺は見た。
さらに毒を喰らおうと銃弾が刺さろうと薬草を塗って水を飲んだら全回復する。ダチョウか?
この2人の超人アクションがとにかく面白い。
あまりぶっ飛んでいて所々ギャグになっているレベル。しかし、物語の盛り上がりとアクションが完璧にリンクしているせいで、いつの間にか泣いている。何度口をあんぐり開けたかわからない。しかしその数秒後には涙が溢れてくる。これが無限に繰り返されるのだ。
勿論力押し一辺倒では無い。それがまさに「ナートゥ」。
インド映画の伝統でもあるダンスと歌が、絶妙な緩急をもたらすのだ。しかも歌詞でストーリーを説明してくるので、全く集中が途切れない。キレのある踊りは寧ろテンションが上がる。
英国人であるヒロインと仲良くなり、パーティにお呼ばれしたビーム。兄貴分となったラーマが機転をきかせ、仲良くなるきっかけを作る。通訳をしながら、大事なところでスムーズにフェードアウトし、ビームに見せ場を作る。ビームは田舎の出身なので色々慣れない部分も多いが、ラーマが鮮やかにフォロー。ビバ友情。
念願叶ってヒロインとダンスを踊るのだが...
英語人が足を引っ掛け、ビームを転ばせる。彼は言う。
「インド人如きに踊りができるのか?芸術が分かるのか?」
さらに煽りとしてその場でステップを踏んでみせる。
「コレがタンゴ。コレがステップだ。お前にはできまい。」
周囲の嘲笑。屈辱に顔を歪めるビーム...
その時、突如としてドラムが鳴り響く。ラーマが音楽隊のドラムを奪い取り、リズムを奏でている。(無駄にカッコいいスティックプレイを披露しながら)。
それは彼らの部族の音楽。会場にいたインド人たちが声を上げる。ラーマが言い放つ。
「ナートゥをご存知か?」
コレ。この流れだ。ベタを外さない。ど真ん中200キロのストレートが脳天を貫く。2人の見事な踊りに会場がどよめく。ヒロインの顔が輝く。何故か英国人も踊る。
全く説明は無いが、なんか分かる。いつの間にかダンスバトルになっているし、何故かビームとラーマが戦っているがなんか分かる。英国人が膝を突き悔しがっている。いやどういうことだよ。
しかしこの感情に訴えてくる謎の勢いが、視聴者を掴んで離さないのだ。
しかし、しかしだ。一つだけ納得いかない事があった。この映画は3時間。今回の劇場は途中休憩がある事がアナウンスされていた。盛り上がりは最高潮。どうやって休憩に入るのかと思ったら...
インタァアァバル。
流石に笑うって!!いや、分かるよ!?一番分かりやすいもんね。でも他になんとかならなかったのかよ!!
しかしこの奇想天外さこそが、本作の最大の魅力なのだ。キャラクター達は大真面目なのだが、最早ギャグ。でもやっぱりキャラクター達が大真面目だからこそ泣ける。まだまだ行こう。次に語るのは
圧倒的絵作りの力だ。
これがとにかく強い。世界一と言っていい。ビームが初めて画面に映る瞬間など、水飛沫が舞い後光が指す。轟く咆哮。マーベルヒーローも思わず拍手するだろう。その姿、まるで神の降臨也。
しかし、本当にコレは神の降臨をイメージして製作されているのである。
監督のインタビューから抜粋する。
子供の頃から神話の物語が頭の中にありました。それらを知ったのは、コミック、年長者の語り、小説、映画などを通してでした。そして今、頭の中でひしめき合っているそれらを逐次参照する必要もないほどなのです。自分でも困惑するほどに、それらはいちいち紐解く必要すらなく、ストーリーを書き始めると勝手に出てくるのです。つまり、全てが混ざり合っているんです。
恐らく監督の頭の中には、「神話の1シーン」がくっきりと浮かび上がるのだ。そしてそれを元に作り上げられるカットは、驚くほどハッキリしたものになる。例えるなら絵画のスライドショー。1シーン1シーン、「コレを見ろ!!」と言う部分が明確。余りに明確なので笑う。
笑う。
勿論、ありとあらゆる映画監督が撮りたい瞬間がありカメラを回しているだろう。俳優たちも全力で撮影しているはずだ。しかし本作ほど明確には出来ない。何故か?予算が無い。時間がない。スタッフが足りない。しかし本作は...
製作費、97億円。
国が買えるわ。
流石に言いすぎたかもしれない。しかしインパクトだけでいったらそのくらいはある。恐るべしインド映画市場。しかし本作の面白さの前には納得しかないのであった。(ちなみに制作費世界一はパイレーツオブカリビアンの375億。こっちは本当に小国が買える)
神話を意識した監督のイマジネーションと、それを完璧に再現する役者と技術力。ハリウッドも超える潤沢な資金。こりゃあ面白いわけですぜ。
総括に入ろうと思う。この「RRR」。語り切れないほどの魅力を備えているが、自分はこの物語を
「人が神に至る過程」であると感じた。
物語全体を通して、二人は友情と使命の間で揺れ動く。
毒蛇に噛まれたラーマ。ビームは部族に伝わる薬草(エリクサー)を使い、彼を解毒する。そしてそこで、自身の目的と正体を明かす。
ラーマにとってそれは、最高の友人こそが最大の敵であったことを意味する。
敵の本丸にたどり着き、決死の猛攻(猛獣による攻撃)
を仕掛けるビーム。しかしその前に(つい1時間前まで毒で死にかけていた)ラーマが(何故か爆弾を積んだ馬車に乗って)立ちふさがる。花火が上がる。なんで?
このような戦いと和解を何度も繰り返していく。二人の友情は固くなり、覚悟も決まる。使命を友情が上回るその時、アクションは人間を超えたモノになっていく。
これは決してただのノリではないのだ。バイクを爆破し火を操り、池に敵を沈め水と共に浮上する。矢を放ち、鎖を振り回し、敵を瞬く間になぎ倒していく。不死身。無敵。スーパースター。範馬勇次郎。
その姿はまるで神話の英雄だ。
古来より、人は理解できないもの、超常の力を神と崇めてきた。
ならば、アクション(理解できない)を成し遂げ、使命を超えた友情(超常の力)で結ばれた二人は、相応の扱いをされるべきだろう。終盤におけるラーマのビジュアルチェンジもそれに拍車をかける。
最終版、全く意味不明なシーンの連続なのに、涙が止まらない。行け。行け。全てを超えて行け。
飛躍してるように聞こえるかもしれないが、見た人なら頷いてくれるはずだ。
友情と使命、その果てに待つ神話。ぜひ貴方も確かめてほしい。
流石にもう上映してるところは少ないが、あるにはある!(自分は立川シネマシティで見た)極上のエンタメ、是非映画館の爆音で!