現在、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が放送中である。同作は固定概念化した「ガンダムの文脈」に変革を起こすべく、学園ドラマのお約束を踏襲したり、ロボットよりもキャラクター、戦争よりも人間ドラマに主眼を置いた作りで毎週大いにネットを盛り合げている。
しかし、ガンダムが新生を目指し、それがヒットするのは初めてではない。
かつてガンダムの新生を成し遂げた作品。それこそが、今から20年前に放送された「機動戦士ガンダムSEED」である。
今回、改めて全48話を見直した感想を、ガンダムシリーズにおいてSEEDが果たした役割と共に語っていく。ネタバレ注意!
あらすじ
C.E.70年、プラントと「地球連合」において発生した戦争は農業用プラント・ユニウスセブンに核ミサイルが撃ち込またことで激化。物量で勝る地球連合軍の勝利で終わると予想されていた戦争は、膠着状態によって11か月が経過した。
C.E.71年、工学を専攻するコーディネイターの少年キラ・ヤマトは、中立国オーブのコロニー・ヘリオポリスで平和に暮らしていた。しかし、このコロニー内では連合軍による5機のMSの開発と新造戦艦の建造が極秘裏に行われており、その情報を得たザフトのクルーゼ隊は独断で奪取作戦を開始する。日常は一変しコロニーは戦場へと変わり果てた。キラは逃げ惑ううちにMS工場へと辿り着き、連合兵とザフト兵の激しい銃撃戦に鉢合わせしてしまう。その中には、幼少の頃の親友のアスラン・ザラがいたのだった。
奥が主人公のキラ、手前がアスラン。
①製作の背景
2002年当時、ガンダムシリーズは斜陽にあった。
生みの親である富野由悠季が1993年の「機動戦士Vガンダム」で精神を病み、(大体バンダイとサンライズのお偉いさんたちのせい)
製作が出来なくなったことを受け、シリーズは1stガンダムから続く「宇宙世紀シリーズ」を一新。作品ごとに監督を変える製作体制に入った。
1996年にはイケメン主人公たちが活躍する「新機動戦記ガンダムW」
といった、俗にいう「アナザーガンダム」シリーズを展開し、宇宙世紀のシリーズはビデオ販売で展開する(OVA)、という時代に入った。
しかし、続く「起動新世紀ガンダムX」は予算の不足もあり、人気が低迷。
1999年には富野由悠季が復帰し、ガンダム作品すべての行きつく先である「∀ガンダム」を制作。ガンダムシリーズ全体にピリオドを打った。
時代は21世紀に入り、もはや1stガンダムを知る子供たちのほうが少ない。そんな時代に「機動戦士ガンダムSEED」は製作された。
②1stガンダムのリメイク
ガンダムSEEDのテーマは「21世紀の1stガンダム」。そのテーマを体現するため、
「主人公が戦争に巻き込まれる」「戦うことに後ろ向き」
「仮面の敵がいる」
といった、ガンダムのお約束をしっかり踏襲。
なんとストーリーラインまで完璧になぞっており、
「物資が不足し、放棄された戦場で物資を漁る」「大気圏に突入するも目的にたどり着けない」「砂漠で人生の指針となる敵の生き方に触れる」という細かなところも同じ。
主人公機のデザインは、カラーリングは踏襲しているがかなりスタイリッシュに。
1stガンダムのエッセンスを抜き出しつつ、キャラクターやガンダムのデザインをスタイリッシュにまとめ上げることで、「1stガンダムのリメイク」という側面を持たせたというわけだ。
② 濃密な人間ドラマ
そんなガンダムSEEDだが、もちろんただのリメイクではヒットしない。SEEDのオリジナリティとして、「友情と恋愛」が挙げられる。
主人公である「キラ・ヤマト」は、本来戦争とはなんの関係もない一般人である。
しかし状況に吞み込まれ、否応なくガンダムのパイロットを務めることになるのだが、戦場でかつての友人「アスラン・ザラ」と出会う。
キラとアスランは何度も戦場でぶつかり合い、その度に思い悩む。「なぜアイツと戦わねばならないのか」「きっとあいつは利用されているんだ」「でも、あの船には友達がいるんだ」...。
この悩み苦しむ人間ドラマこそが、SEEDの根幹である。
1stガンダムは「戦争という状況を通し、主人公がどう変化していくか」が描写されている。人間ドラマも勿論大きいが、「戦争を描く」という部分がかなり強調されている。
1stを踏襲すれば、「戦争」の描写は当然うまくいく。そこに「人間ドラマ」を加えることで、2002年の人々に響く作品になる。そういう目的があったのだろう。
さらに、SEEDの戦争の根幹は、遺伝子を作り変えた新人類、「コーディネーター」と、そうでない「ナチュラル」の争いである。
そして主人公であるキラは、ナチュラルの陣営にありながら、「コーディネーター」なのである。(なぜそうなったかは本編を見てほしい。)
コーディネーターはそうでない人類より圧倒的に優秀だ。ガンダムだって簡単に動かせるし、戦闘も強い。病気も滅多にかからない。しかし、キラが活躍すればするほど、周囲に「アイツは遺伝子いじってるんだもんな」「俺たちとは違うもんな」という軋轢を生んでいく。
友人達を守るために戦っているのに、その友人達の輪から遠ざかって行く。
つまり、SEEDの物語には、「差別」が組み込まれている。
それもまた、人間ドラマを加速させていくファクターとなる。コーディネーター、ナチュラル、友達...。
その軋轢は、戦争の原因そのものだ。
キラ自身も、友人と諍いを起こす事になる。(これはどちらも悪いとは言えない)
しかし現実は待ってくれない。戦わなければ、次に落とされるのは自分の船かもしれないのから...。
この人間ドラマとガンダムの文脈が混ざり、まあとにかく面白い。
ガンダムSEEDの人気は当時すさまじく、ビデオは130万本売れたという。その人気の根底には、ドラマとガンダムの文脈を見事に融合させた物語の妙があるのだ。そしてもうひとつ欠かせないのが、「恋愛」である。
この少女はヒロインの一人、「フレイ・アルスター」。クラスで人気の美少女で、いいとこのお嬢様だが、やはり戦争に巻き込まれ、目の前で父を失うことになる。
このフレイがとにかく大暴れするのである。
まずフレイはお嬢様育ちで、やや空気が読めない。加えてちょっと差別主義が入っており、船の仲間のために同胞であるコーディネーターと戦うキラを、無責任に罵倒する。
「あんた、コーディネーターだから本気で戦ってないんでしょう!」と。
父親が死んでからはその無軌道っぷりはさらに悪化。なんと、キラと肉体関係を持ち、恋仲になることで自分を守るという動機を与え、キラを戦いに駆り立てるという、シリーズでも屈指の悪女ムーブをかますのだ。
しかし、フレイもまた戦争という状況に翻弄されており、ただ勢いで行動している「子供」にすぎない。
わがままで空気が読めない所も、ある意味では子供っぽい可愛らしさにさえ写る。
大人でも子供でも無い、その不安定さ。そんなフレイの妖しい魅力が、物語を回していくのだ。
何より皮肉なことに、戦えば戦うほど孤独になっていくキラには、すがれる誰かが必要だった。
二人は共依存的な関係に陥り..って湿度高すぎィ!!!!
夕方のアニメでやる内容じゃねえ!!!
失礼、当方限界につきついツッコんでしまいました。とまあ、そのくらいリアルで生々しい恋愛ドラマが展開されるのである。
フレイも、最初はただ利用するだけだったキラの優しさに触れ、徐々に変わっていく。キラもまた、戦争の中で強くなり、依存関係を断ち切るように動き出す。
二人の結末は、ぜひ本編で確かめて欲しい。
③ メリハリの利いたアクション
もうひとつ、SEEDで語らねばならないのはメリハリの利いたアクションのかっこよさだ。
見よ、このまるで歌舞伎の見栄を張るような、堂々たる決めポーズ。
戦闘の最中でも頻繁に見栄を切り、どこでカットしてもキメッキメでアクションを行う。この見栄えのいいアクションは福田監督のストロングポイントであり、ガンプラの売り上げに大きく貢献した。
放送から20年経った今も、SEEDのガンプラは途切れることなくリメイク、再版され続けているくらいだ。
象徴的だったのが35話、「舞い降りる剣」。西川貴教アニキの名曲、「ミーティア」と共に、後期主人公機である「フリーダム」が宇宙から降下してくるのだが...
いやカッコよすぎるだろ。
おそらくガンダムシリーズ全作品を通しても1位になるであろう、圧倒的な登場シーン。この1シーンに、SEEDアクションの全てが詰まっていると言っても過言では無い。
このようなメリハリの利いたアクションが、「ロボットアニメ」としてのSEEDの成功を生み出したことは間違いない。
④ 誰も皆、彷徨いながら
さて、ここまでSEEDの魅力を語ってきたが、実はこのガンダムSEEDは賛否の分かれる作品でもある。
上記の人間ドラマは、面白い反面非常に煮え切らない。
主人公たちは徐々に戦う覚悟を決めていくものの、戦争を止める具体的な解決策を思いついたり、「戦争は仕方ないよね」と受け入れることもない。
最後の最後まで悩み苦しみ、「どうして僕たちはこんなところにきてしまったんだろう」というキラの言葉で締めくくられる。
そこに結論はないのだ。
しかし、現実の戦争が、いち市民では抵抗できないように、本来個人の持つ力とはちっぽけなものである。
物語の中には、そこを突破するカタルシスを提供するものもある。ガンダムシリーズにももちろんそういった作品が存在する。(ダブルオーとか。)
それはそれで魅力がある。しかし、SEEDの描く世界とは、そのような混沌で、結論の出ないものなのだ。
「正義と信じ、分からぬと逃げ、知らず、聞かず!」
「その果ての終局だ! もはや止める術などない!」
「この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で」
「何を信じる? なぜ信じる?」
このセリフは、最終盤で敵役が語るセリフだ。
どうだろうか?このセリフに対して、キラは答えを出せなかった。
結論の出ない混沌とした世界を、それでももがき、悩みながら生きて行く。
だからこそ多くの人に響き、今なお伝説として語りつがれる、そんな作品なのではないだろうか。
SEED第一話(ガンダムチャンネル)↓
<画像5/14>劇場版『ガンダムSEED』新作が制作進行中と判明。内容はTVシリーズの続編 - 電撃オンライン (dengekionline.com)
なお、現在SEEDは劇場版を製作中。20年前のシリーズの続編映画が未だに期待されているところからも、SEEDの人気の高さがうかがえる。
興味のある人、是非一度見てみてください。48話と長いので、倍速で見れるコーディネーターは倍速視聴もオススメ。但し、「これは!?」となるシーンが必ずあるので、そこはしっかり等倍で見るんだぞ。