現在、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が放送中である。
TVシリーズとしては実に7年ぶりということで、毎週楽しく見ているのだが、
そうなると無性に前作に当たる「鉄血のオルフェンズ」を見返したいなあ、という気持ちが湧いてきた。(理由は後述)
先に言っておくと、この「鉄血のオルフェンズ」、非常に賛否両論な作品である。
オルフェンズを見た事がなくとも、「止まるんじゃねえぞ、、、」という圧倒的ネットミームの存在から、作品名、あるいは「オルガ」というキャラクター名を知っている人は多いのではなかろうか。
賛否の理由としては、①バッドエンド ②脚本への不満 ③後半の主人公サイドの行動のぶれっぷり などがあると思うのだが、
放送から7年経った今、2022年の自分にはどう見えるのかな、と興味が湧いた次第である。で、改めて今一期12話まで見てるんだけど、、、
まあ、面白いね。
あらすじ
かつて「厄祭戦」と呼ばれる大きな戦争があった。その戦争が終結してから、約300年。
地球圏はそれまでの統治機構を失い、新しい支配体系をもって新たな世界が構築されていた。仮初めの平和が訪れる一方で、地球から離れた火星圏では、新たな戦いの火種が生まれつつあった。
主人公の少年、三日月・オーガスが所属する民間警備会社クリュセ・ガード・セキュリティ(以下:CGS)は、地球の一勢力の統治下にある火星都市クリュセを独立させようとする少女、クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛任務を受ける。しかし、反乱の芽を摘み取ろうとする武力組織ギャラルホルンの襲撃を受けたCGSは、三日月ら子供たちを囮にして撤退を始めてしまう。少年達のリーダー、オルガ・イツカはこれを機に自分たちを虐げてきた大人たちに反旗を翻してクーデターを決意。オルガにギャラルホルンの撃退を託された三日月は、CGSの動力炉として使用されていた「厄祭戦」時代のモビルスーツ、ガンダム・バルバトスを用いて戦いに挑む。
確かに気になるところもある。しかし魅力的な点もある。まさに賛否両論。今回はそのあたりを語っていこうと思う。
①キャラクター
とにかくこの一点が強い。この作品が他のガンダムと比較してずば抜けているのはここだ。
特筆すべきはやはり我らが団長、「オルガ・イツカ」であろう。
戦争孤児である少年たちが、大人に搾取され、暴力を受け続けてきた。が、クーデターを起こし自分たちの組織を立ち上げ、成り上がっていく、、というのが一期の主なストーリー。その中心を担うのがこのオルガだ。
オルガは①仲間思いで ②度胸があって ③筋を通すことに拘る
という実に「任侠」的なキャラクターだ。ろくに教育も受けられていない子供たちの中にあって、頭もキレる。
この「オルガ」がとにかく危なっかしくてハラハラするのである。
象徴的だったのが6話のシーン。参謀役たるビスケットとオルガが、今後の方針について喋るシーンだ。
組織(鉄華団)を立ち上げたのはいいが、資金がない。今後を考え、安全策を提案する参謀役、ビスケットに対し、オルガはこう言って危険な道を進もうとする。
「ミカが見てるんだ。オルガ、つぎはどうする。どんな面白いものを見せてくれるんだ。あの目に映る俺は、いつだって最高にカッコイイオルガ・イツカでなきゃいけねえんだ。…あの目は裏切れねえ。悪いが、変更はなしだ。」
...いやその話何の説明にもなってないっすよね!?!?!?
ビスケットはあくまで今後のチームの展望を相談しに来たのである。が、リーダーから返ってきたのは「俺はカッコイイ俺でいたい」という謎の自分語り。会話になってねえ。
コレ。これがオルガの一番危ない点であり、魅力的なところなのだ。
結局オルガは、「自分の美学」を仲間と共に貫きたいだけなのである。
9話でも、いわゆるヤクザである「タービンズ」が、
「自分たちの傘下に入れば安全な職を紹介してやるぜ」と交渉してくれている(ヤクザからすれば鉄華団は全く相手にならないレベルなので、本来は交渉なんかする必要もない)にも関わらず、オルガは意地を張って戦闘になる。なんとかなったものの、危うく死人が出るところだった。
いや、このリーダー危険すぎるやろ。
さらに医療スタッフもいない中宇宙船で出発し仲間を失いかけ、大人に指摘されるとちょっと拗ねる、といった面も見えたり、正直危なっかしくて見ていられない。
が、未熟ながらも筋を通そうと努力し、仲間第一で行動するオルガを嫌いにはなれない。細谷佳正氏の演技もめっちゃ良い。吐息にまでキャラが宿っている。
二期後半ではよく、「鉄華団が無能化する」「オルガがバカになる」と揶揄されるが、いやコイツ最初から危険人物ですよ。大局的な判断ができず、自分の拘りを持ち出すリーダー等言語道断である。
しかし物語は鉄華団視点で進んでいくので、オルガを視聴者は好きにならざるを得ない。故に二期で崩壊していく鉄華団に納得できなくなってしまう、というのが不満足感の本質なのではないだろうか。しかし、客観的に見れば組織が立ち行かなくなっていくのは当然と言えば当然。リーダーにそもそも問題があるよな、と思った訳である。
そんで、このオルガの危なっかしさに拍車をかけているのがぶっ壊れサイコパス(一応主人公)、「三日月・オーガス」である。
三日月は①ぶれない ②容赦なし ③仲間思い の性格で、オルガの指示があればどんな相手でも殺しに行く人の形をした自動追尾ミサイルである。
彼自身は一切の判断を行わず、オルガに「次はどうすればいい?」と聞くばかりの指示待ち人間。が、とにかく強い。負けない。他のガンダム主人公のように戦闘中に揺らがない。
この脅威のミサイルを飼っているせいで、オルガの危険な美学が現実のものになってしまうのだ。
危険で未熟なリーダーが、絶対無敵の兵器を持っている。これが鉄華団という組織の屋台骨になってしまっているのである。しかもメンバーは子供のみ。ヤクザ組織の傘下に入っているので後ろ盾もある。危ねぇ...。
ガンダムどころか創作物全体を通して稀有な主人公で、彼は「悩む」という行為から切り離されている。こんな奴好きにはなれない、、となりそうだが、戦闘以外では
「農園を経営したい」「仲間に手出しは許さない」「字の勉強を頑張りたい」といった、実に素朴な性格を見せる。
彼は二期最後で死亡する結末がまっているのだが、正直行動だけ見ると妥当かも、、とすら思ってしまう。そのくらい容赦なく暴力で道を切り開いていくのである。(ちなみに映像作品のガンダム主人公で作中明確に戦死するのは三日月のみである。)
オルフェンズのキャラクターはこのように、「客観的にみたらどう考えても危険な奴ら」なのだが、視聴者の視点が鉄華団サイドなので「良いところ」も見えてしまう。キャラを好きになってしまうと、危険な面まで美徳に見える。狙ってやっているのなら見事なキャラ造形だが、スタッフのインタビューを見るとライブ感でこういった造形になっている気もする。
が、その危なかっしさが物語を牽引し、"コイツらの先を見たい"という視聴者の原動力になるのである。つくづく稀有なキャラクター達だ。
②ドラマ
肝心のドラマはとにかく「露悪的」。これに尽きる。
物語前半に登場する敵役は大体「脂ぎったデブのオッサン」である。しかも少年兵を奴隷のようにこき使っており、平気で殴る、蹴る。
それを被害者である三日月たちがコテンパンにのしていくのだが、、、
正直、見ていて気持ちの良いものではない。
そこにあるのは暴力の連鎖であり、ガンダムにありがちな「人類の進化」や、「世界の未来」と言ったテーマ性はない。「見るからに悪い奴を鉄華団が潰していく」。ただそれだけである。キャラデザも"露骨"すぎる。主人公にやられます、と顔に書いてあるでは無いか。その癖目は妙に丸くてキレイなのは何なんだ。目薬でも差しているのか。もっと汚い濁った目をしていて頂けないだろうか。ねえオルガ、こいつどうする?分かった。(パンパン
それはさておき、戦闘シーンがとにかくカッコイイ。マジでカッコいい。楽曲が盛り上がる。耳に残る。この辺りは流石天下のガンダムである。
が、寧ろそのせいで、視聴者は鉄華団の振るう暴力に何も感じないのである。
この辺りも「上手い」。もし敵が一般人だったり、美形のキャラだったらどうしても鉄華団を好きにはなれないだろう。しかしこのキャラデザの悪人を倒すなら文句は無い。正義にすら思える。
(ちなみに二期では敵が治安維持組織になるので美形も増える。それもまたモヤモヤポイントか。)
また、セリフも露骨に下ネタだったり、不自然に女に飢えてる描写を入れてきたりと(この辺りは脚本家の癖のような気もするが)「エグみ」のようなものを随所に感じる。
「鉄華団は悪なので破滅することは決まっていた」というスタッフサイドの発言が取り沙汰されることがあるが、結末を知りながら見直すと、物語は明らかにその方向へ向かって走っているなあ、と思うし、客観的に見てもその結末に文句は浮かばない、と改めて思った。
(しかし、まだ二期後半を見直していないので見たら感想は変わってきそうである)
このように、賛否両論で寧ろ当然。そのくらい複雑な魅力があるのが"鉄血のオルフェンズ"であり、だからこそ7年経っても人々の記憶に残っているのだろう。オルガがずっとネタ動画界隈で暴れているというのもあるが、それは勿論記憶に残る良いキャラクターだったからである。止まるんじゃねぇぞ....。いやもう止まらせてやれ。
とまあ色々語ってきたが、なぜ今更オルフェンズなのかというと、現在放送中の「水星の魔女」、キレイに「正反対」なんですよね。
「水星の魔女」は、
キャラ造形にエグみがなく、違和感のある行動、発言をしない。(悪く言えばキャラっぽい)
物語は丁寧で、先に困難が待っている気配もするが、きちんとした終わりに導こうとしているような雰囲気。
緻密に組み上げられた、ライブ感を感じない展開。
などなど。
念のため断っておくが、「水星の魔女」は良い「オルフェンズ」は悪い と言いたいのでは無い。
どちらも最高に面白い。
同じ「ガンダム」という枠組みなのに、こうもふり幅があるものか、と。そこに面白さを感じずにはいられない。
(ちなみにこれが富野ガンダムになるとキャラクターは"生き物"になり、逆に視聴者には何を言っているのか理解できなくなる。それはそれで魅力。)
まだ12話まで見返しただけなので、今後2期ラストまで見るとまた違った感想があるかもしれない。また、「水星の魔女」もどうなるかまだまだ分からない。
深く様々な魅力に溢れたガンダムワールド。
機会があれば皆さんにも是非見てもらいたいと思う。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。